ふうきんとさかなのまち
風琴と魚の町

冒頭文

1 父は風琴を鳴らすことが上手(じょうず)であった。 音楽に対する私の記憶(きおく)は、この父の風琴から始まる。 私達(たち)は長い間、汽車に揺(ゆ)られて退屈(たいくつ)していた、母は、私がバナナを食(は)んでいる傍で経文を誦(ず)しながら、泪(なみだ)していた。「あなたに身を託(たく)したばかりに、私はこの様(よう)に苦労しなければならない」と、あるいはそう話しかけていたのかも

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1931(昭和6)年4月

底本

  • ちくま日本文学全集 林芙美子
  • 筑摩書房
  • 1992(平成4)年12月18日