あだうたれげさく
仇討たれ戯作

冒頭文

一 六樹園石川(いしかわ)雅望(まさもち)は、このごろいつも不愉快な顔をして、四谷内藤新宿の家に引き籠って額に深い竪皺を刻んでいた。 彼はどっちを向いても嫌なことばかりだと思った。陰惨な敵討の読物が流行するのが六樹園は慨嘆に耐えなかったのである。 客あれば彼はよくこの風潮を論じて真剣に文学の堕落を憂えたものであった。 一度三馬が下町の真ん中からぶらりとこの山の手

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物」1934(昭和9)年5月

底本

  • 一人三人全集Ⅱ時代小説丹下左膳
  • 河出書房新社
  • 1970(昭和45)年4月15日