くちぶえをふくぶし
口笛を吹く武士

冒頭文

無双連子      一 「ちょっと密談——こっちへ寄ってくれ。」 上野介護衛のために、この吉良の邸へ派遣されて来ている縁辺上杉家の付家老、小林平八郎だ。 呼びにやった同じく上杉家付人、目付役、清水一角が、ぬっとはいってくるのを見上げて、書きものをしていた経机を、膝から抜くようにして、わきへ置いた。 「相当冷えるのう、きょうは。」 「は。何といっても、師走(しわす)ですか

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日」1932(昭和7)年3月

底本

  • 一人三人全集Ⅱ時代小説丹下左膳
  • 河出書房新社
  • 1970(昭和45)年4月15日