ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書

冒頭文

深山の巻——女髪兼安(にょはつかねやす)——     猿の湯 岩間に、黄にむらさきに石楠花(しゃくなげ)が咲いて、夕やみが忍び寄っていた。 ちょうど石で畳んだように、満々と湯をたたえた温泉(いでゆ)の池である。屹立(きつりつ)する巌のあいだに湧く天然の野天風呂——両側に迫る山峡を映して、緑の絵の具を溶かしたような湯の色だった。 三国(みくに)ヶ嶽(だけ)を背にした阿弥陀

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書
  • 河出書房新社
  • 1970(昭和45)年1月15日