深山の巻——女髪兼安(にょはつかねやす)—— 猿の湯 岩間に、黄にむらさきに石楠花(しゃくなげ)が咲いて、夕やみが忍び寄っていた。 ちょうど石で畳んだように、満々と湯をたたえた温泉(いでゆ)の池である。屹立(きつりつ)する巌のあいだに湧く天然の野天風呂——両側に迫る山峡を映して、緑の絵の具を溶かしたような湯の色だった。 三国(みくに)ヶ嶽(だけ)を背にした阿弥陀