とじょうのはんにん
途上の犯人

冒頭文

一 東京駅で乗車した時から、私はその男の様子が気になり出した。思いなしではなく、確かにその男の方でもじろじろと私の方にばかり注意して居る。 色の青白い、三十四、五の痩せた男である。身なりは大して賤しい方ではない。さっぱりした背広を着し、ソフトを戴いて居るのだが、帽子は乗り込むとすぐ棚の上においたようだった。外套は特に取り立てていうような物でない。 私はこの男を確かにどこか

文字遣い

新字新仮名

初出

「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号

底本

  • 日本探偵小説全集5 浜尾四郎集
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1985(昭和60)年3月29日