ころされたてんいちぼう
殺された天一坊

冒頭文

一 あれ程迄世間を騒がせた天一坊も、とうとうお処刑(しおき)となって、獄門に梟(か)けられてしまいました。あの男の体は亡びてもあの悪名はいつ迄もいつ迄も永く伝えられる事でございましょう。世にも稀な大悪人、天下を騙(だま)し取ろうとした大かたり、こんな恐ろしい名が、きっとあの男に永く永くつき纏(まと)うに違いございませぬ。 私のようなふつつか者が廻らぬ筆をとりましたのも、その事を考え

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1929(昭和4)年10月号

底本

  • 日本探偵小説全集5 浜尾四郎集
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1985(昭和60)年3月29日