ゆめのさつじん
夢の殺人

冒頭文

「どうしたって此の儘ではおけない。……いっそやっつけちまおうか」 浅草公園の瓢箪池(ひょうたんいけ)の辺(ほとり)を歩きながら藤次郎は独り言を云った。然し之は胸の中(うち)のむしゃくしゃを思わず口に出しただけで、別段やっつけることをはっきり考えたわけではなかった。ただ要之助という男の存在のたとえなき呪わしさと、昨夜の出来事が嘔吐を催しそうに不快に、今更思い起されたのである。 藤次郎

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1929(昭和4)年10月号

底本

  • 日本探偵小説全集5 浜尾四郎集
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1985(昭和60)年3月29日