ラジオまんだん
ラヂオ漫談

冒頭文

東京に移つてから間もなくの頃である。ある夜本郷の肴町を散歩してゐると、南天堂といふ本屋の隣店の前に、人が黒山のやうにたかつてゐる。へんな形をしたラツパの口から音がきれぎれにもれるのである。 「ははあ! これがラヂオだな。」 と私は直感的に感じた。しかし暫らくきいてゐると、どうしても蓄音機のやうである。しかもこはれた機械でキズだらけのレコードをかけてる時にそつくりで、絶えずガリガリといふ針音

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻96 大正
  • 作品社
  • 1999(平成11)年2月25日