あきとまんぽ
秋と漫歩

冒頭文

四季を通じて、私は秋という季節が一番好きである。もっともこれは、たいていの人に共通の好みであろう。元来日本という国は、気候的にあまり住みよい国ではない。夏は湿気が多く、蒸暑いことで世界無比といわれているし、春は空が低く憂鬱であり、冬は紙の家の設備に対して、寒さがすこしひどすぎる。(しかもその紙の家でなければ、夏の暑さがしのげないのだ。)日本の気候では、ただ秋だけが快適であり、よく人間の生活環境に適

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 猫町 他十七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成)年5月16日