ウォーソンふじんのくろねこ |
ウォーソン夫人の黒猫 |
冒頭文
ウォーソン夫人は頭脳もよく、相当に教育もある婦人であった。それで博士の良人(おっと)が死んで以来、或(あ)る学術研究会の調査部に入り、図書の整理係として働らいていた。彼女は毎朝九時に出勤し、午後の四時に帰宅していた。多くの知識婦人に見る範疇(はんちゅう)として、彼女の容姿は瘠形(やせがた)で背が高く、少し黄色味のある皮膚をもった神経質の女であった。しかし別に健康には異状がなく、いつも明徹した理性で
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 猫町 他十七篇
- 岩波文庫、岩波書店
- 1995(平成)年5月16日