うおがし
魚河岸

冒頭文

去年の春の夜(よ)、——と云ってもまだ風の寒い、月の冴(さ)えた夜(よる)の九時ごろ、保吉(やすきち)は三人の友だちと、魚河岸(うおがし)の往来を歩いていた。三人の友だちとは、俳人の露柴(ろさい)、洋画家の風中(ふうちゅう)、蒔画師(まきえし)の如丹(じょたん)、——三人とも本名(ほんみょう)は明(あか)さないが、その道では知られた腕(うで)っ扱(こ)きである。殊に露柴(ろさい)は年かさでもあり、

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1922(大正11)年8月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日