ニイチェについてのざっかん
ニイチェに就いての雑感

冒頭文

ニイチェの世界の中には、近代インテリのあらゆる苦悩が包括されてゐる。だれでも、自分の悩みをニイチェの中に見出さない者はなく、ニイチェの中に、自己の一部を見出さないものはない。ニイチェこそは、実に近代の苦悩を一人で背負つた受難者であり、我々の時代の痛ましい殉教者であつた。その意味に於て、ニイチェは正しく新時代のキリストである。耶蘇キリストは、万人の罪を一人で背負ひ、罪なくして十字架の上に死んだ。フリ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻 哲学
  • 作品社
  • 1998(平成10)年10月25日