なつぼうし
夏帽子

冒頭文

青年の時は、だれでもつまらないことに熱情をもつものだ。 その頃、地方の或る高等学校に居た私は、毎年初夏の季節になると、きまつて一つの熱情にとりつかれた。それは何でもないつまらぬことで、或る私の好きな夏帽子を、被つてみたいといふ願ひである。その好きな帽子といふのはパナマ帽でもなくタスカンでもなく、あの海老茶色のリボンを巻いた、一高の夏帽子だつたのだ。 どうしてそんなにまで、あの学

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆38 装
  • 作品社
  • 1985(昭和60)年12月25日