青年の時は、だれでもつまらないことに熱情をもつものだ。 その頃、地方の或る高等学校に居た私は、毎年初夏の季節になると、きまつて一つの熱情にとりつかれた。それは何でもないつまらぬことで、或る私の好きな夏帽子を、被つてみたいといふ願ひである。その好きな帽子といふのはパナマ帽でもなくタスカンでもなく、あの海老茶色のリボンを巻いた、一高の夏帽子だつたのだ。 どうしてそんなにまで、あの学