うたどけい
うた時計

冒頭文

二月のある日、野中のさびしい道を、十二、三の少年と、皮のかばんをかかえた三十四、五の男の人とが、同じ方へ歩いていった。 風がすこしもないあたたかい日で、もう霜(しも)がとけて道はぬれていた。 かれ草にかげをおとして遊んでいるからすが、ふたりのすがたにおどろいて、土手をむこうにこえるとき、黒い背中(せなか)が、きらりと日の光を反射するのであった。 「坊(ぼう)、ひとりでどこ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 牛をつないだ椿の木
  • 角川文庫、角川書店
  • 1968(昭和43)年2月20日