うみのほとり
海のほとり

冒頭文

一 ……雨はまだ降りつづけていた。僕等は午飯(ひるめし)をすませた後(のち)、敷島(しきしま)を何本も灰にしながら、東京の友だちの噂(うわさ)などした。 僕等のいるのは何もない庭へ葭簾(よしず)の日除(ひよ)けを差しかけた六畳二間(ふたま)の離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺(うみべ)に多い弘法麦(こうぼうむぎ)だけは疎(まば)らに砂の上に穂(ほ)を垂れていた。その

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1925(大正14)年9月

底本

  • 芥川龍之介全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年3月24日