ひかりとかぜとゆめ
光と風と夢

冒頭文

一 一八八四年五月の或夜遅く、三十五歳のロバァト・ルゥイス・スティヴンスンは、南仏イエールの客舎で、突然、ひどい喀血(かっけつ)に襲われた。駈付けた妻に向って、彼は紙切に鉛筆で斯(こ)う書いて見せた。「恐れることはない。之が死なら、楽なものだ。」血が口中を塞(ふさ)いで、口が利けなかったのである。 爾来(じらい)、彼は健康地を求めて転々しなければならなくなった。南英の保養地ボー

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 昭和文学全集 第7巻
  • 小学館
  • 1989(平成元)年5月1日