ぎゅうじん
牛人

冒頭文

魯の叔孫豹(しゅくそんひょう)がまだ若かった頃、乱を避けて一時斉(せい)に奔(はし)ったことがある。途(みち)に魯の北境庚宗(こうそう)の地で一美婦を見た。俄(にわ)かに懇(ねんご)ろとなり、一夜を共に過して、さて翌朝別れて斉に入った。斉に落着き大夫(たいふ)国氏(こくし)の娘を娶(めと)って二児を挙げるに及んで、かつての路傍一夜の契(ちぎり)などはすっかり忘れ果ててしまった。 或夜、夢を見

文字遣い

新字新仮名

初出

「政界往来」1942(昭和17)年7月

底本

  • 山月記・李陵 他九篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1994(平成6)年7月18日