ちゅうぎ
忠義

冒頭文

一 前島林右衛門(まえじまりんえもん) 板倉修理(いたくらしゅり)は、病後の疲労が稍(やや)恢復すると同時に、はげしい神経衰弱に襲われた。——  肩がはる。頭痛がする。日頃好んでする書見にさえ、身がはいらない。廊下(ろうか)を通る人の足音とか、家中(かちゅう)の者の話声とかが聞えただけで、すぐ注意が擾(みだ)されてしまう。それがだんだん嵩(こう)じて来ると、今度は極(ごく)些細(ささい)な

文字遣い

新字新仮名

初出

「黒潮」1917(大正6)年3月

底本

  • 芥川龍之介全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年9月24日