てらさかきちえもんのとうぼう
寺坂吉右衛門の逃亡

冒頭文

一 「肌身付けの金を分ける」 と、内蔵之助が云った。大高源吾が、風呂敷包の中から、紙に包んだ物を出して、自分の左右へ 「順に」 と、いって渡した。人々は、手から手へ、金を取次いだ。源吾が 「四十四、四十五、四十六っ」 と、いって、その最後の一つも自分の右に置いた。内蔵之助の後方に、坐っていた寺坂吉右衛門はさっと、顔を赤くして、俯いた。と、同時に、内蔵之助が 「

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 直木三十五作品集
  • 文藝春秋
  • 1989(平成元)年2月15日