ちょぎゅうのこと
樗牛の事

冒頭文

一 中学の三年の時だった。三学期の試験をすませたあとで、休暇中読む本を買いつけの本屋から、何冊だか取りよせたことがある。夏目先生の虞美人草(ぐびじんそう)なども、その時その中に交っていたかと思う。が、中でもいちばん大部だったのは、樗牛全集の五冊だった。 自分はそのころから非常な濫読家だったから、一週間の休暇の間に、それらの本を手に任せて読み飛ばした。もちろん樗牛全集の一巻、二巻、四

文字遣い

新字新仮名

初出

「人文」1919(大正8)年1月

底本

  • 羅生門・鼻・芋粥
  • 角川文庫、角川書店
  • 1950(昭和25)年10月20日