あめんちあ |
あめんちあ |
冒頭文
彼はどっしり掩(おお)いかぶっている雨催いの空を気に病みながらもゆっくりと路を歩いていた。そうして水溜のように淡く耀いている街燈の下に立止るたびに、靴の上へ積った砂埃(すなぼこり)を気にするのであったが、彼自身の影さえ映らない真暗な路へさしかかると、またしても妙に落着きを装うて歩きつづけるのであった。 彼がようやく辿(たど)り着いたこの路は、常に歩きつけているなじみの場所である。そうして
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」1911(明治44)年5月
底本
- 書物の王国11 分身
- 国書刊行会
- 1999(平成11)年1月22日