むほんろん(そうこう) |
謀叛論(草稿) |
冒頭文
僕は武蔵野の片隅に住んでいる。東京へ出るたびに、青山方角へ往(ゆ)くとすれば、必ず世田ヶ谷を通る。僕の家から約一里程行くと、街道の南手に赤松のばらばらと生えたところが見える。これは豪徳寺——井伊掃部頭直弼(いいかもんのかみなおすけ)の墓で名高い寺である。豪徳寺から少し行くと、谷の向うに杉や松の茂った丘が見える。吉田松陰の墓および松陰神社はその丘の上にある。井伊と吉田、五十年前には互(たがい)に倶不
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 日本の名随筆 別巻92 哲学
- 作品社
- 1998(平成10)年9月25日