ただれ

冒頭文

一 最初におかれた下谷(したや)の家から、お増(ます)が麹町(こうじまち)の方へ移って来たのはその年の秋のころであった。 自由な体になってから、初めて落ち着いた下谷の家では、お増は春の末から暑い夏の三月(みつき)を過した。 そこは賑(にぎ)やかな広小路の通りから、少し裏へ入ったある路次のなかの小さい平家(ひらや)で、ついその向う前には男の知合いの家があった。 出

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の文学 9 徳田秋声(一)
  • 中央公論社
  • 1967(昭和42)年9月5日