あしあと
足迹

冒頭文

一 お庄(しょう)の一家が東京へ移住したとき、お庄はやっと十一か二であった。 まさかの時の用意に、山畑は少しばかり残して、後は家屋敷も田もすっかり売り払った。煤(すす)けた塗り箪笥(だんす)や長火鉢(ながひばち)や膳椀(ぜんわん)のようなものまで金に替えて、それをそっくり父親が縫立ての胴巻きにしまい込んだ。 「どうせこんな田舎柄(いなかがら)は東京にゃ流行(はや)らないで、こ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の文学 9 徳田秋声(一)
  • 中央公論社
  • 1967(昭和42)年9月5日