とししゅん
杜子春

冒頭文

一 或春の日暮です。 唐の都洛陽(らくやう)の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。 若者は名は杜子春(とししゆん)といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費(つか)ひ尽(つく)して、その日の暮しにも困る位、憐(あはれ)な身分になつてゐるのです。 何しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来(わうらい)

文字遣い

新字旧仮名

初出

「赤い鳥」1920(大正9)年7月号

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日