ちとうたがい
知と疑い

冒頭文

物理学は他の科学と同様に知の学であって同時にまた疑いの学である。疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う。暗夜に燭(しょく)をとって歩む一歩を進むれば明は一歩を進め暗もまた一歩を進める。しかして暗は無限大であって明は有限である。暗はいっさいであって明は微分である。悲観する人はここに至って自棄する。微分を知っていっさいを知らざれば知るもなんのかいあらんやと言って学問をあざけり学者をののしる。 人

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻76 常識
  • 作品社
  • 1997(平成9)年6月25日