すもう
相撲

冒頭文

一 一月中旬のある日の四時過ぎに新宿の某地下食堂待合室の大きな皮張りの長椅子の片すみに陥没して、あとから来るはずの友人を待ち合わせていると、つい頭の上近くの天井の一角からラジオ・アナウンサーの特有な癖のある雄弁が流れ出していた。両国の相撲の放送らしい。野球の場合とちがって野天ではなく大きな円頂蓋(えんちょうがい)状の屋根でおおわれた空間の中であるだけに、観客群衆のどよみがよくきこえる。行

文字遣い

新字新仮名

初出

「時事新報」1935(昭和10)年1月

底本

  • 日本の名随筆 別巻2 相撲
  • 作品社
  • 1991(平成3)年4月25日