しもこおるよい
霜凍る宵

冒頭文

一 それからまた懊悩(おうのう)と失望とに毎日欝(ふさ)ぎ込みながらなすこともなく日を過していたが、もし京都の地にもう女がいないとすれば、去年の春以来帰らぬ東京に一度帰ってみようかなどと思いながら、それもならず日を送るうち一月の中旬を過ぎたある日のことであった。陰気に曇った冷たい空(から)っ風(かぜ)の吹いている日の午前、内にばかり閉じ籠(こも)っていると気が欝いで堪えられないので、また外に

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年5月5日