きょうらん
狂乱

冒頭文

一 二人の男の写真は仏壇の中から発見されたのである。それが、もう現世にいない人間であることは、ひとりでに分っているのだが、こうして、死んだ後までも彼らが永(とこし)えに、彼女の胸に懐(なつ)かしい思い出の影像となって留(とど)まっていると思えば、やっぱり、私は、捕捉(ほそく)することの出来ないような、変な嫉妬(しっと)を感じずにはいられなかった。そして今、何人にも妨げられないで、彼女を自分ひ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年5月5日