くろかみ
黒髪

冒頭文

一 ……その女は、私の、これまでに数知れぬほど見た女の中で一番気に入った女であった。どういうところが、そんなら、気に入ったかと訊(たず)ねられても一々口に出して説明することは、むずかしい。が、何よりも私の気に入ったのは、口のききよう、起居振舞(たちいふるま)いなどの、わざとらしくなく物静かなことであった。そして、生まれながら、どこから見ても京の女であった。もっとも京の女と言えば、どこか顔に締

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年5月5日