みちつなのはは
道綱の母

冒頭文

一 呉葉は瓜の出來る川ぞひの狛の里から、十の時に出て來て、それからずつと長く兵衞佐の家に仕へた。そこには娘達が多かつたが、中でも三番目の窕子とは仲が好くつて、主從の區別はあつても、しん身に劣らぬほどの心を互ひに取りかはした。後には窕子のためにつけられた侍女のやうになつて了つた。 かの女にはいろいろなことが思ひ出される。まだ來たばかりで、朝に夕に故郷の母のことを思つて打しをれてゐると

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 田山花袋全集 第十二巻
  • 文泉堂書店
  • 1974(昭和49)年1月20日