やこ
野狐

冒頭文

ひとのいう、(たいへんな女)と同棲(どうせい)して、一年あまり、その間に、何度、逃げようと思ったかしれない。また事実、伊豆のM海岸に疎開のままになっている妻子のもとに、度々戻ったこともある。 しかし、それはいつも完全に逃げられなかった。(たいへんな女)が恋しく、女房の鈍感さに堪えられなかったのである。たいへんな女、桂子の過去を私はよく知らない。私は桂子と街で逢った。けれども普通の夜の天使

文字遣い

新字新仮名

初出

「知識人」1949(昭和24)年5月

底本

  • 昭和文学全集 第32巻
  • 小学館
  • 1989(平成元)年8月1日