どうじんご
瞳人語

冒頭文

長安に、方棟(ほうとう)という男があった。非常な才子だといわれていたが、かるはずみで礼儀などは念頭におかなかった。路で歩いている女でも見かけると、きっと軽薄にその後をつけて往くのであった。 清明の節の前一日のことであった。たまたま郊外を歩いていると、一つの小さな車がきた。それは朱の色の戸に繍(ぬい)のある母衣(ほろ)をかけたもので、数人の侍女がおとなしい馬に乗って蹤(つ)いていた。その侍

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 中国の怪談(二)
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1987(昭和62)年8月4日