りょくいじんでん
緑衣人伝

冒頭文

趙源(ちょうげん)は家の前へ出て立った。路の上はうっすらと暮れかけていた。彼はその時刻になってその前を通って往く少女を待っているところであった。緑色の服装をして髪を双鬟(ちごわ)にした十五六になる色の白い童女で、どこの家のものとも判らないし、また、口を利(き)き合ったというでもないが、はじめて顔を合わした時から、その潤みのある眼元や口元に心を引きつけられていた。そして、翌晩となり、翌々晩となるに従

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 中国の怪談(一)
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1987(昭和62)年5月6日