あいけいでん
愛卿伝

冒頭文

胡元(こげん)の社稷(しゃしょく)が傾きかけて、これから明が勃興しようとしている頃のことであった。嘉興(かこう)に羅愛愛(らあいあい)という娼婦があったが、容貌も美しければ、歌舞音曲の芸能も優れ、詩詞はもっとも得意とするところで、その佳篇麗什(かへんれいじゅう)は、四方に伝播せられたので、皆から愛し敬(うやま)われて愛卿と呼ばれていた。それは芙蓉(ふよう)の花のように美しい中にも、清楚な趣のあった

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 中国の怪談(一)
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1987(昭和62)年5月6日