崔興哥(さいこうか)は春風楼を目的(めあて)にして来た。そこには彼の往こうとしている呉防禦(ごぼうぎょ)という富豪の家があった。少年の時、父に伴われて宣徳府(せんとくふ)へ行ったきりで、十五年間一回もこの揚州へ帰ったことのない興哥は、故郷とはいえ未知の土地へ来たと同じであった。彼は人に訊き訊きして、もう陽の落ちる頃、やっと呉防禦の家へ著いた。 表門を入って中門の前へ往ったところで、下男が