さつじんき
殺神記

冒頭文

唐の開元年中、郭元振(かくげんしん)は晋(しん)の国を出て汾(ふん)の方へ往った。彼は書剣を負うて遊学する曠達(こうたつ)な少年であった。 某(ある)日(ひ)、宿を取り損ねて日が暮れてしまった。星が斑(まばら)に光っていた。路のむこうには真黒な峰が重なり重なりしていた。路は渓川(たにがわ)に沿うていた。遥か下の地の底のような処で水の音が聞えていた。鳥とも蝙蝠(こうもり)とも判らないような

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 中国の怪談(一)
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1987(昭和62)年5月6日