きつねのてちょう
狐の手帳

冒頭文

一 幕末の比(ころ)であった。本郷の枳殻寺(からだちでら)の傍に新三郎と云う男が住んでいたが、その新三郎は旅商人(たびあきんど)でいつも上州あたりへ織物の買い出しに往って、それを東京近在の小さな呉服屋へ卸していた。それは某年(あるとし)の秋のこと、新三郎の家では例によって新三郎が旅に出かけて往ったので、女房のお滝は一人児の新一と仲働の老婆を対手に留守居をしていた。 もう蚊もいな

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の怪談
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1985(昭和60)年12月4日