おとについて
音について

冒頭文

文字を読みながら、そこに表現されてある音響が、いつまでも耳にこびりついて、離れないことがあるだらう。オセロオであつたか、ほかの芝居であつたか、しらべてみれば、すぐ判(わか)るが、いまは、もの憂く、とにかくシエクスピア劇のひとつであることは間違ひない、とだけ言つて置いて、その芝居の人殺しのシイン、寝室でひそかに女をしめ殺して、ヒロオも、われも、瞬時、ほつと重くるしい溜息。額の油汗拭はむと、ぴくとわが

文字遣い

新字旧仮名

初出

「早稲田大学新聞 第60号」早稲田大学新聞社、1937(昭和12)年1月20日

底本

  • 太宰治全集 10
  • 筑摩書房
  • 1990(平成2)年12月25日