こうてい
後庭

冒頭文

いつもの様に私は本を持って庭に出た。 書斎の前の木の茂みの深い間々を、静かに読みながら行き来すると、ピッタリと落つきを持って生えた苔の美くしい地面の何とも云えず好い一種の香いが、モタモタした気持をスッキリ澄せて行く。 二三度左手を帯にはさんで行ったり来たりすると、何となし急に周囲の景色に気をとられた。 この二三日何かして一度も庭に出ずに居た間に大変、変化をした様に思わ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 宮本百合子全集 第三十巻
  • 新日本出版社
  • 1986(昭和61)年3月20日