ひととき
ひととき

冒頭文

はるかな森の梢に波立って居るうす紅い夕栄の雲の峯を見入りながら、私は花園の入口の柱によりかかって居る。 何となく朝から霧の晴れ切れない様な日だったので、非常に静寂な夕暮である。 うす青い様な空気の中に素早い動作で游いで居るトンボと蝙蝠の幾匹かは、一層高いところを、東へ東へと行く白鳥の灰色の影の下に如何にも微妙な運動をしめして居る。 つめたい風が渡って居そうに暗い木陰に

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 宮本百合子全集 第三十巻
  • 新日本出版社
  • 1986(昭和61)年3月20日