いちにちのろうく
一日の労苦

冒頭文

一月二十二日。 日々の告白という題にしようつもりであったが、ふと、一日の労苦は一日にて足れり、という言葉を思い出し、そのまま、一日の労苦、と書きしたためた。 あたりまえの生活をしているのである。かくべつ報告したいこともないのである。 舞台のない役者は存在しない。それは、滑稽(こっけい)である。 このごろだんだん、自分の苦悩について自惚(うぬぼ)れを持って来た

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1938(昭和13)年3月1日発行

底本

  • 太宰治全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年6月27日