昨年の夏、私は十年振(ぶ)りで故郷を見た。その時の事を、ことしの秋四十一枚の短篇にまとめ、「帰去来」という題を附けて、或る季刊冊子の編輯部(へんしゅうぶ)に送った。その直後の事である。れいの、北さんと中畑さんとが、そろって三鷹の陋屋(ろうおく)へ訪ねて来られた。そうして、故郷の母が重態だという事を言って聞かせた。五、六年のうちには、このような知らせを必ず耳にするであろうと、内心、予期していた事であ