こきょう
故郷

冒頭文

昨年の夏、私は十年振(ぶ)りで故郷を見た。その時の事を、ことしの秋四十一枚の短篇にまとめ、「帰去来」という題を附けて、或る季刊冊子の編輯部(へんしゅうぶ)に送った。その直後の事である。れいの、北さんと中畑さんとが、そろって三鷹の陋屋(ろうおく)へ訪ねて来られた。そうして、故郷の母が重態だという事を言って聞かせた。五、六年のうちには、このような知らせを必ず耳にするであろうと、内心、予期していた事であ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(昭和64)年1月31日