ききょらい
帰去来

冒頭文

人の世話にばかりなって来ました。これからもおそらくは、そんな事だろう。みんなに大事にされて、そうして、のほほん顔で、生きて来ました。これからも、やっぱり、のほほん顔で生きて行くのかも知れない。そうして、そのかずかずの大恩に報いる事は、おそらく死ぬまで、出来ないのではあるまいか、と思えば流石(さすが)に少し、つらいのである。 実に多くの人の世話になった。本当に世話になった。 この

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(昭和64)年1月31日