ふしんあん
不審庵

冒頭文

拝啓。暑中の御見舞いを兼ね、いささか老生日頃の愚衷など可申述(もうしのぶべく)候(そうろう)。老生すこしく思うところ有之(これあり)、近来ふたたび茶道の稽古にふけり居り候。ふたたび、とは、唐突にしていかにも虚飾の言の如く思召(おぼしめ)し、れいの御賢明の苦笑など漏し給わんと察せられ候も、何をか隠し申すべき、われ幼少の頃より茶道を好み、実父孫左衛門殿より手ほどきを受け、この道を伝授せらるる事数年に及

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(昭和64)年1月31日