はなふぶき
花吹雪

冒頭文

一 花吹雪という言葉と同時に、思い出すのは勿来(なこそ)の関である。花吹雪を浴びて駒を進める八幡太郎義家の姿は、日本武士道の象徴かも知れない。けれども、この度の私の物語の主人公は、桜の花吹雪を浴びて闘うところだけは少し義家に似ているが、頗(すこぶ)る弱い人物である。同一の志趣を抱懐(ほうかい)しながら、人さまざま、日陰の道ばかり歩いて一生涯を費消する宿命もある。全く同じ方向を意図し、甲乙の無い努

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年1月31日