ダス・ゲマイネ |
| ダス・ゲマイネ |
冒頭文
一 幻燈 當時、私には一日一日が晩年であつた。 戀をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであつた。それより以前には、私の左の横顏だけを見せつけ、私のをとこを賣らうとあせり、相手が一分間でもためらつたが最後、たちまち私はきりきり舞ひをはじめて、疾風のごとく逃げ失せる。けれども私は、そのころすべてにだらしなくなつてゐて、ほとんど私の身にくつついてしまつたかのやうにも思はれてゐたその賢明な、怪我の少い
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「文藝春秋 第十三巻第十号」1935(昭和10)年10月1日
底本
- 太宰治全集2
- 筑摩書房
- 1998(平成10)年5月25日