おもいで
思ひ出

冒頭文

一章 黄昏のころ私は叔母と並んで門口に立つてゐた。叔母は誰かをおんぶしてゐるらしく、ねんねこを着て居た。その時の、ほのぐらい街路の靜けさを私は忘れずにゐる。叔母は、てんしさまがお隱れになつたのだ、と私に教へて、生(い)き神樣(がみさま)、と言ひ添へた。いきがみさま、と私も興深げに呟いたやうな氣がする。それから、私は何か不敬なことを言つたらしい。叔母は、そんなことを言ふものでない、お隱れになつ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「海豹」1933(昭和8)年4月、6月、7月号

底本

  • 太宰治全集2
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月25日