一 お宗(そう)さん お宗(そう)さんは髪の毛の薄いためにどこへも縁(えん)づかない覚悟をしてゐた。が、髪の毛の薄いことはそれ自身お宗さんには愉快ではなかつた。お宗さんは地肌の透(す)いた頭へいろいろの毛生(けは)え薬をなすつたりした。 「どれも広告ほどのことはないんですよ。」 かういふお宗さんも声だけは善かつた。そこで賃仕事の片手間(かたてま)に一中節(いつちうぶし)の稽古(け