とうきょうはっけい (くなんのあるひとにおくる)
東京八景 (苦難の或人に贈る)

冒頭文

伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、他には何一つとるところの無い、つまらぬ山村である。戸数三十という感じである。こんなところは、宿泊料も安いであろうという、理由だけで、私はその索寞(さくばく)たる山村を選んだ。昭和十五年、七月三日の事である。その頃は、私にも、少しお金の余裕があったのである。けれども、それから先の事は、やはり真暗であった。小説が少しも書けなくなる事だってあるかも知れない。二箇

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界」1941(昭和16)年1月号

底本

  • 走れメロス
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1967(昭和42)年7月10日、1985(昭和60)年9月15日40刷改版